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豊島八段が棋聖戦挑決進出、勝利を引き寄せた秀逸な大局観を徹底検証

time 2018/04/26

第89期ヒューリック杯棋聖戦決勝トーナメント準決勝、豊島将之八段vs阿部光瑠六段の対局は、123手で豊島八段が勝利しました。


豊島八段(左)、阿部六段。出典:日本将棋連盟

機敏な仕掛け

後手の阿部六段が飛車先を受けずに早繰り銀を繰り出し、豊島八段が雁木模様の構えで受けるいかにも現代的な序盤となりました。

後手は2筋で目一杯突っ張っており(△2三歩と打つと将来△2八歩と打てなくなるため▲3四飛と取りやすくなります)、△7五歩には▲6五歩の反撃が気になるため△7三桂と力を溜めたところです。しかしここから▲3四飛、△3三角、▲7五歩とその桂頭を狙った手が機敏で、豊島八段が早くもリードを奪いました。以下△同銀、▲5四飛、△8六歩に▲7四飛(△8七歩成は▲7三飛成)と先手の飛車が大活躍し、後手は受けに神経を使う展開となりました。

「飛車先交換+雁木」という至って自然な先手の構えに対し、本譜の進行で後手が思わしくないのであれば、後手番が主導権を握りに行く指し方として最近よく見られる「飛車先を受けない早繰り銀」という構想そのものに疑問符が付きかねないのではないでしょうか。

形勢接近

後手は角銀交換の戦果を上げましたが、歩の枚数の差や▲7四歩の傷、玉形の差などを総合すると先手が指しやすい局面です。ここで▲2五飛と平凡に回れば、△2四歩には▲5五飛~▲7四歩が厳しく、△1二角の勝負手にも▲5八玉と受けておけば先手がリードを保てました。

本譜は▲7六飛と引いたため、△8六歩、▲同歩、△同角、▲4八玉に△7五歩と、パズルのような手順で飛車の捕獲に成功した後手が盛り返しました。

大局観と長期戦

後手が△4二銀と壁を解消した局面。▲7五角成には△2四飛、▲2七歩、△4五角から殺到されてしまいますが、ここからの豊島八段の構想は見事でした。

▲1七角成、△4四歩、▲3九玉、△3三桂、▲2七歩、△1四歩、▲3五馬、△4五歩、▲5八銀、△7六歩、▲2八玉・・・

通常の将棋では、戦いが長引くことは遊び駒を活用する猶予が得られるため、駒得をしている側に有利に働きます。しかし△4二銀の局面と▲2八玉まで進んだ局面を比べると、玉形を見違えるほど発展させた先手の方が明らかにポイントを挙げています。長期戦はむしろ歓迎だと判断した豊島八段の大局観が光った指し回しで、形勢は依然として微差ではあるものの、実戦的には後手の方が指し手が難しい将棋になっています。

我慢比べの末に

我慢比べのようなじりじりした展開の末に、阿部六段はついに△5八角成、▲同金、△6九飛と踏み込みました。しかし▲5七角が△3九銀を受けながら飛車取りとなるぴったりの受けで、△4六歩、▲5九金、△8九飛成、▲7九金と進み、先手優勢がはっきりしました。

△5八角成では先に△4六歩と突く手が勝り、▲同歩なら本譜と同じ進行で▲5七角が飛車取りになりません。したがって先手も▲6八馬と受けるのでしょうが、△4七歩成、▲同銀左、△7四飛と進めば、後手は角を手放したものの待望の歩の入手を果たすことに成功し、まだまだ先が見えない戦いが続いてたようです。

阿部六段も秘術を尽くして攻めを繋げていますが、▲3一飛成が読み切りの一手でした。以下△5七桂左成からの突撃にも冷静に対処し、最後は持ち駒を蓄えた豊島八段が後手玉を即詰みに打ち取って勝利を収めました。

本局は豊島八段が序盤から機敏な動きでリードを奪いましたが、阿部六段も巧みに切り返して形勢を立て直しました。しかしそこから長期戦に持ち込んで十分と判断した豊島八段の大局観が光り、絶好調の阿部六段に対して我慢比べのような長い中盤戦で一日の長を見せつけた形となりました。

勝った豊島八段は挑戦者決定戦で三浦弘行九段vs稲葉陽八段の勝者と対戦します。3月に王将戦と名人戦で手痛い敗北を喫して以降はこれで7勝1敗と、鬱憤を晴らすかのように再び勝ちまくっています。毎年のように非常に高い勝率を挙げているからこそ、大勝負での敗北がより印象に残ってしまっている豊島八段ですが、今年度こそは初タイトルを手にすることは出来るのでしょうか。

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