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佐藤名人が防衛に王手、竜王を追い詰めた完勝譜を徹底検証

time 2018/05/30

第76期名人戦七番勝負第5局、佐藤天彦名人vs羽生善治竜王の対局は、佐藤名人が84手で勝利しました。


出典:Abema TV

佐藤名人が完勝で名人3連覇に王手を掛けた一局を検証します。

一路の差

先手番の4連勝で迎えた第5局は、後手番の佐藤名人が得意の横歩取りを選択。対する羽生竜王はさほど時間を使うことなく▲3六飛と引く旧型の展開を選びました。立会人が青野照市九段だということや、最近の公式戦の傾向などからは青野流が有力かと思われましたが、佐藤名人の研究が最も行き届いているであろう戦型を避けたのかも知れません。

佐藤名人が△2六歩と突いた局面で封じ手を迎えましたが、この1手前までは先手玉の位置が5八ではなく6八であれば3月に行われたA級順位戦最終局の広瀬vs豊島戦と同じ局面でした。その将棋では豊島八段は△2六歩に代えて△3五歩と動きましたが、広瀬八段の快勝に終わっています。ただし、△2六歩と△3五歩のいずれを後手が選択しても先手玉の位置は2筋の戦場から遠い6八の方が勝っている可能性が高いので、佐藤名人としては5八玉型だからこそこの局面へ誘導したという側面もあるかも知れません。

羽生竜王の封じ手は大方の予想通り▲4六角でした。類似形の前例が名人戦の挑戦争いに絡んだ大一番だったということもあり、封じ手の局面は両対局者も事前にある程度読みの下積みがあったと思われますが、△2一飛と引かれた後の本譜の展開を見ると、後手の飛車と持ち駒の角に対して先手の大駒が窮屈な印象が否めず、既に先手が面白くない将棋だったようです。両者の玉の2筋からの距離の差も見た目以上に物をいうことになりました。

最短の勝ちへ

先手は何とか後手の3四銀と2六歩の脅威を緩和したものの、その代償に飛車を端へ追いやられてしまいました。そしてここで△3六歩と強く攻め合いを選んだのが自然な好判断で、▲5五歩、△3七歩成、▲5四歩、△3八と、▲5三歩成、△同玉と進み、後手は玉を引っ張り出されたものの先手からは細かい攻めが続かない形で、駒得の後手が優位を広げました。

ここから△2七歩成と再び踏み込んだのが最短の勝ちを読み切った一手でした。▲3四歩、△同飛、▲3五銀、△同飛、▲同角、△3八ととシンプルに進み、駒損の先手は広い後手玉に迫る手段がありません。

夕食休憩後に佐藤名人が△4三桂と指すと、羽生竜王は殆ど時間を使わずに▲3三歩成と首を差し出しました。以下△3五桂、▲3二と、△5七銀と進み、羽生竜王がすぐに投了されました。以下は▲6九玉、△6八銀打、▲同金、△同銀成、▲同玉に△5九角以下の詰みがあります。

羽生竜王がこれほどあっさりと土俵を割ることは非常に珍しいですが、本局では佐藤名人の指し回しがあまりにも完璧で、紛れを求める手順すらなかったということでしょう。

追い詰められた竜王

昨年の竜王戦以降はしり上がりに調子を上げて名人戦の挑戦者となった羽生竜王。佐藤名人の直近の勝率が思わしくなかったこともあり、第1局を大熱戦の末に羽生竜王が制した直後は通算100期目のタイトル獲得を予想する声が多かったですが、本局を終えてついに2勝3敗と追い込まれました。

内容的にも、今期の名人戦は第2局以降はやや一方的な展開が続いており、両者の読み筋があまりかみ合っていない印象を受けます。2年前の名人戦でも後半は羽生竜王らしからぬ完敗が目立っただけに、持ち時間9時間の名人戦と抜群の相性の良さを発揮している佐藤名人の手厚い棋風に対し、やりにくさを感じておられるのかも知れません。

名人戦第6局(6月19-20日)までは約3週間とやや間が空きますが、羽生竜王にはそれまでに4日には王位戦挑戦者決定戦(豊島将之八段vs澤田真吾六段の勝者)、6日には棋聖戦第1局(豊島八段)と大勝負が控えています。

星取り、日程、そして第6局が後手番だという意味でも苦しくなった羽生竜王ですが、持ち前の勝負強さを発揮してカド番をこらえることが出来るでしょうか。

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