2018/10/16
第59期王位戦七番勝負第3局、菅井竜也王位vs豊島将之棋聖の対局は、菅井王位が157手で勝利し、対戦成績を2勝1敗としました。
菅井王位の振り飛車らしい巧みな捌きと、豊島棋聖の実戦的な勝負術が激突した大熱戦を検討します。
欲張った中飛車穴熊
先手の菅井王位の中飛車に対し、豊島棋聖は左美濃で対抗しました。中飛車から先手が速攻を仕掛けた第1局と対照的な持久戦模様に進むかと思われましたが、午前10時過ぎには早くも菅井王位が銀交換を仕掛けて小競り合いが勃発。しかし先手はその後一転して穴熊へ潜り、逆に後手が左美濃を完成させた直後に戦いを仕掛ける展開となりました。
▲5六飛と浮いた局面で豊島棋聖の封じ手となりました。先手は自分だけ銀を手持ちにしていることを、後手は先手陣の金の離れ駒を主張しています。
封じ手は大本命の△7六歩でした。先手には次に▲3九金という非常に価値が高い手がある以上、後手としては攻め続けるしかなく、中でも△7六歩は最も自然な一手でしょう。以下▲6八角、△4五歩、▲5七角、△7二飛と進み次の図へ:
これぞ振り飛車
ここで▲5三歩と垂らしたのが軽妙な一手で、先手がペースを掴んだようです。次の▲6三銀が厳しいため△同金と取りましたが、▲7三歩が継続手で、△同金には▲6二銀で決まります。豊島棋聖は△同桂、▲7五角、△9九角成と応じましたが、角と桂が働くとはいえ銀香交換では自信が持てない手順でしょう。
△7二飛では△5五歩や△8六銀も有力で、先手が捌き切れるかどうかは微妙だったと思いますが、▲5三歩のような指し回しを見ると、菅井王位なら他の変化でも巧みに手を作っていたような気もします。
数手進み、4筋にアヤを付けられた先手陣の薄さも気になる局面ですが、ここで▲7七桂(!)が絶好の捌きでした。△同桂成には▲6六角があり、かといって▲6六角の王手を防ぐだけの手には▲6五桂~▲5三角成が厳しいため、△7五飛と切るしかありませんが、▲同飛、△7七桂成、▲7二飛成、△7八成桂に▲4二銀と食いついて穴熊ペースの展開です。序盤から懸念だった左辺の駒がいつの間にか殆ど駒損なく捌けているのも見逃せません。
待望の反撃
後手が金銀を自陣に投入して徹底抗戦を続けていますが、▲8四角でついに▲5一歩成以下の確実な攻めが受からなくなりました。しかしここで△1五歩、▲同歩、△1六歩が実戦的な勝負手で、先手に楽をさせませんでした。▲同香には△4五歩~△2四香から2筋を狙われる順がちらつくため、取るかどうか非常に悩ましいタイミングです。菅井王位は▲5一歩成、△1五香、▲5二銀成の攻め合いを選びましたが、△同金、▲同とに△1七香と急所を直撃されては混戦模様です。
この辺りは菅井王位に明快な勝ちがありそうな気もしていましたが、決め手となると意外と難しかったようです。この後も豊島棋聖の執拗な端攻めが続きました。
唯一のチャンス
攻めのターンが続いている豊島棋聖についにチャンスが訪れた局面。本譜は△1四同香、▲同金、△2八銀打、▲同金、△1九飛と畳みかけましたが、▲1八金、△1六歩、▲同玉、△1八飛成に▲1七歩と打たれた形が思いの他寄りづらい形でした(△2八銀不成には▲2九桂)。一方の後手玉は駒を渡したこともあり粘りが利かない形で、この後は際どいながら後手に勝機はなかったようです。
△1四同香では△3三馬と引けば激戦が続いていたようです。この瞬間だと先手は金取りを受ける適当な手段がなく(▲1六香は△1五馬~△2八銀打~△1九飛で、本譜と比べ後手の持ち駒が金一枚多いため寄り筋)、▲4一と、△同銀、▲3九金に△1五馬と急所に馬が躍り出る展開になります。先手にも▲2三香成という強烈な反撃があるため形勢は難解ですが、後手にも十分勝機はあった気がします。
豊島棋聖としては△3三馬も当然読んでおられたでしょうが、この辺りは手の組み合わせが多いこともあり選択肢が広く、本譜の手順も着実に先手玉を追い詰めていかにも勝ちがありそうだったことがやや不運でした。
勝った菅井王位はこれで2勝1敗と再びリードを奪いました。第2局が珍しいほどの完敗だっただけに、先手番の本局を制したことは番勝負の流れから見ても大きそうです。一方の豊島棋聖も敗れはしたものの、中終盤の粘りや追い上げはさすがの迫力で、初タイトル獲得後の勢いが続いていることを感じさせます。第4局以降も熱戦が期待出来そうです。
コメント
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by 防衛に王手か、再び五分か:菅井王位vs豊島棋聖、王位戦第4局がスタート | 将棋を100倍楽しむ! 8月 22, 2018 8:58 am
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