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豊島八段が棋聖戦挑戦者に!3月の悔しさをバネに5度目の正直に挑む

time 2018/05/01

第89期ヒューリック杯棋聖戦挑戦者決定戦、三浦弘行九段vs豊島将之八段の対局は、豊島八段が84手で勝ちました。


出典:Abema TV

新感覚の序盤

角換わりの出だしから先手の三浦九段が積極的に仕掛け、序盤早々から大決戦となりました。

▲3五歩に後手の豊島八段が△7三桂と反撃の準備を整えた局面。▲3五歩と突いたからには3筋から攻めるのかと思いきや、三浦九段は▲1五銀と端へ繰り出しました。

▲3五歩を突かずに先に▲1五銀だと△2二銀と引いて銀交換を拒否する受けがあったため、それを回避出来るのであれば3筋で一歩損するよりも銀交換を果たす得の方が大きいと見ています。

そこで豊島八段も△3五歩と取らずに△6五桂と足早に反撃しましたが、三浦九段は▲2四歩とさらに踏み込み、午前中からのっぴきならない展開へ突入しました。

3筋の一歩損どころか、7筋で銀桂交換の駒損を背負ってでも2筋の銀交換を優先させたのは通常ではありえない構想ですが、本局では後手陣に▲7一銀の傷があることと、△5一玉と▲7九玉の堅さに瞬間的にかなりの差があるため、十分成立していました。

スキがないバランス感覚

数手進み、結果的に先手は一歩損も銀桂交換もされることなく棒銀をさばくことに成功しました。後手はその代償を得るために3四飛を取りに行くしかありませんが、先手は最低でも5四銀との交換は約束されており、▲4九金が飛車に強い構えであることや後手の歩切れ、5一玉の不安定さといった条件を総合すると、先手からはかなり乱暴な攻めが成立しかねない局面です。例えば単純に△3三金とすると▲6五銀と食いちぎられ、△同歩、▲5四飛、△同歩、▲6四銀(△同金は▲7三角)と強襲されて後手陣は崩壊します。

豊島八段はここで△8四角と放ちました。先ほどの変化の最後に▲7三角と打たれる傷を消しつつ△5七桂成の反撃を見せた攻防手ですが、▲7五歩と突かれると先手陣への利きはすぐに遮断され、8二飛や5一玉との距離の近さから将来的に目標にされそうな位置でもあるためやや指しづらい一手です。

後手が受けに回る局面がかなり続く展開となり、実戦的には先手が勝ちやすそうな局面でしたが、8四角は結果的にはこの後目標にされるどころか後手陣の守備の要として大活躍することになり、豊島八段のバランス感覚が光った一手でした。

唯一の決定機

▲3三歩成と挟撃された後手玉は風前の灯ですが、この瞬間はまだ詰めろではありません。しかし△7六歩には▲7五歩と催促されて勝てず、△2四角の攻防手にはじっと▲3一とと寄る手が妙手で、△3三角には▲3二と、△5七桂成には▲3四とでいずれも後手が勝てません。

しかしここで堂々と△2八飛と攻め合った手が気づきづらい勝負手でした。▲3四桂の詰めろが厳しいようですが、△5一角と角を引いた後手玉は意外に耐久力があり、残り時間が既に10分を切っていた三浦九段は焦らされることになりました。

結果的には、ここで▲6五銀と取り、△同歩に、▲4二と、△同角、▲同桂成、△同玉、▲3四桂と迫れば先手勝ちだったようです。以下△3三玉には▲3五銀で、△5二玉には▲3一とと詰めろを掛けておけばいずれも後手玉は受けづらく、先手玉は△8八銀に▲6九玉と逃げれば詰みません。しかし▲4二とから清算する手順はいかにも後手玉を広い右辺へ逃がすようで、△3三玉に▲3五銀と単純に縛った形が意外に受けづらいことが認識出来なければ選べない指し方です。この手順が押し気味に進めていた本局で決定打を得られた唯一のチャンスだったのは、三浦九段としてはやや不運でした。

本譜は▲3二とと辛抱して右辺の手がかりを残しましたが、終盤で後手を引いてしまったのは痛く、持ち時間を温存していた豊島八段が△2四角打から的確に寄せ切って挑戦権を獲得しました。

本局は銀桂交換を許してでも後手陣の立ち遅れが大きいと見て仕掛けた三浦九段の斬新な大局観が正しく、先手がほぼ一方的に攻勢を取る勝ちやすい展開を得たかに見えました。しかし、並みの棋士ではそのまま押し切られそうな局面が続く中、△8四角に象徴される正確な受けでギリギリのバランスを保った豊島八段の指し回しが見事で、三浦九段は▲6五銀という唯一の決定打を発見することが出来ませんでした。84手という短手数だったことが信じられないほど力の入った熱戦でした。

5度目の正直

豊島八段は3月に王将戦と順位戦プレーオフで手痛い敗北を喫して以降は本局までこれで8勝1敗と、燃え尽きるどころか敗戦をバネにして一層凄みを増したようにすら感じられます。棋聖戦以外にも王位戦(白組リーグ3連勝)と竜王戦(1組決勝進出)でも挑戦が見えてくる位置まで勝ち進んでおり、昨年度以上の活躍を予感させています。ただし、同じく絶好調の羽生竜王が保持する竜王と棋聖に加え、王位戦(羽生竜王が赤組リーグ3連勝で既に挑戦者決定戦進出が濃厚)でも羽生竜王を倒さなければタイトルに手が届かないのは、豊島八段に課せられた宿命のようにすら感じられます。

A級棋士にして未だに通算勝率7割を維持し、対羽生戦の通算成績も9勝12敗とそこまで離されていないにもかかわらず、これまで4度のタイトル挑戦(うち2度は対羽生戦)ではいずれも敗退し、棋戦優勝もJT杯の1度のみ(2度の準決勝での対羽生戦はいずれも敗北)と、大勝負での、特に対羽生戦の敗戦の印象が強い豊島八段。3月にも順位戦プレーオフで羽生竜王に敗れたばかりですが、棋聖戦では今度こそ大きな壁を乗り越えることが出来るでしょうか。

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