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3月27日の羽生vs谷川戦が待ち切れない!光速流の名局:第1位

time 2018/03/26

3月27日の王位戦挑戦者決定リーグで、羽生善治竜王対谷川浩司九段の通算166局目の対局が行われます。


出典:朝日新聞

公式戦で対戦が増えると、トップ棋士同士ではお互いの読みや大局観が合ってくることが多いようですが、羽生vs谷川戦は特にその傾向が強い気がします。その最たる例が、1994年度の王将戦で初めて7冠独占に挑んだ羽生6冠を谷川王将がフルセットの末に下した第7局です。

相矢倉から後手の谷川王将が26手目に△8五歩と伸ばした手に対して先手の羽生6冠が▲3五歩と突っかけ、33手目に当時新手だった▲5七角と上がる手を経て迎えた40手目の局面。羽生6冠はここから▲7五歩と突きましたが、この将棋は結局中盤で千日手が成立しました。

そして30分後に開始された指し直し局では、先後を入れ替えて後手の羽生6冠が26手目に△8五歩と伸ばす、全く同じ進行をたどります。当時の羽生6冠は相矢倉では△8五歩を決めずに△6四角と上がるケースが多く、△8五歩と突くのは谷川王将の得意型でした。さらに、谷川王将も初見だったはずの33手目▲5七角を採用し、何と40手目の先ほどの図まで全く同じ手順が再現されたのです。

結局この将棋は41手目に谷川王将が▲3五歩と変化し、熱戦の末に先手が勝ちました。

両者の盤上での会話を想像すると、

羽生6冠:「新手の▲5七角はあまりうまく行きませんでしたね。ではあなたならどうしますか?」

谷川王将:「いやいや、初めて見ましたけどいい手ですね」

羽生6冠:「そうですか。△4二銀から△3三銀が柔らかい指し方で感心したのですが」

谷川王将:「▲7五歩の代わりに▲3五歩ならどうでしょう?」

と、驚くほど呼吸が合っていたことになります。

千日手指し直し局が40手目まで全く同じ進行をたどるというのは、長い公式戦の歴史の中でも恐らく最長記録ではないでしょうか。少なくとも、お互いを認め合っていなければ実現し得ない現象です。

谷川九段が往年の底力を発揮し、名勝負をもう一度見せてくれることを期待するファンは多いはずです。その一人である管理人が、過去の羽生vs谷川戦の中から光速流の名局ベスト3を勝手に選んで、3日に渡りご紹介します。

3月27日の羽生vs谷川戦が待ち切れない!光速流の名局:第3位
3月27日の羽生vs谷川戦が待ち切れない!光速流の名局:番外編
3月27日の羽生vs谷川戦が待ち切れない!光速流の名局:第2位

本日は第1位、羽生vs谷川戦以外の全ての公式戦を含めても最も名局と呼ぶに相応しい将棋だと管理人は思います。

第9期竜王戦七番勝負第2局

1996年10月29日
羽生善治6冠(1勝) vs 谷川浩司九段(0勝)
対局場:岡山県倉敷市「芸文館」
持ち時間:各8時間

空前絶後の7冠独占から8か月。羽生竜王は棋聖こそ三浦弘行五段に失ったものの、棋王・名人・王座・王位と防衛戦を勝ち続け、6冠を堅持していました。

一方の谷川九段は、王将を4連敗で奪われ、背後から日本中のカメラが勝者の羽生7冠へ向けられる屈辱を味わったばかり。それでも竜王戦は準決勝で森内俊之八段、挑戦者決定3番勝負で佐藤康光八段と難敵を連破して挑戦者となりましたが、第1局は熱戦の末に先手番を落としてしまいます。

第2局は角換わりとなります。先手番で主流である腰掛銀に対し、後手の棒銀は相性が良いとされていました。腰掛銀、早繰り銀、棒銀はじゃんけんの関係にある、などと良く言われましたね。

ちなみに現代では、▲3八銀・3七桂型で待ち構える形に対する後手の勝率が芳しくなく、棒銀そのものがプロではあまり見られません。

ここから▲6五歩と突き、△7四歩に▲6八飛と転換しました。6筋からの反撃を見せて棒銀をけん制する手法は現代でも見られます。後手も△7三銀と引き上げ、一気の急戦は回避されて駒組が続きました。

ここでは7三の銀の使い方が難しく、5筋の位も銀に狙われて負担になりそうな形で、先手が作戦勝ちでしょう。羽生6冠は具体的な有利さを求め、▲6一角と動きます。以下、△6二飛、▲8三角成、△9二角、▲同馬、△同飛、▲2五桂と、全面戦争に突入です。

後手、反撃開始

後手に2五の桂を取らせる間に先手は金銀を活用し、6筋の突破が受かりません。

ここで△5五歩と叩いたのが妙手。▲同金だと△6四銀、▲同飛、△7三角で浮き駒となった金を狙われるため、▲同銀と取りましたが、△7五歩で先手玉に嫌味が付きました。

△5五歩▲同銀となった局面は、先手の飛車が素通しとなり、すぐに成り込まれてしまいますが、7三に銀がいれば飛車が成った瞬間に△6二飛とぶつける返し技があります。働きが弱い9二の飛車を活用されるだけではなく、現状では玉形の差(先手玉の守りは金銀2枚に対し、後手玉は3枚)により飛車交換は後手が有利なため、先手はうかつに飛車が成れません。

7三の銀は序盤から働きが今一つだったため、喜んで銀交換に応じてしまいそうですが、この場合は潜在的に飛車成りをけん制するという隠れた働きが生じているのですね。

8一の馬を6三へ引いた局面です。飛車交換は依然として玉が固い後手有利なので、先手としては後手の6二飛・7三銀を抑え込みながら、中央の金銀が厚みとなって働く長期戦を目指したいところです。

しかし、結果的にはこの▲6三馬は危険で、▲6三歩なら僅かながら先手の模様が良かったようです。

ここで谷川九段は△5九角。依然として飛車は渡せないので▲6九飛ですが、そこで伝説の絶妙手が飛び出します!

「光速流」さく裂、△7七桂

一体何枚駒が当たっているか分からないような忙しい局面で、さらに焦点に捨てる△7七桂!痺れますね~

▲同桂や▲同金と取ると、△7六歩で後手の攻めが加速します。一方、桂を捨てる前に銀を取ると、後から△7七桂と打っても手抜かれる恐れが生じます。▲6九飛と引いたこの瞬間だからこそ、飛車取りになっていて先手も応対せざるを得ないのですね。

そこで先手は▲5九飛と角を取り、後手も△6三飛。6筋は先手の飛車の勢力圏だったのですが、いつの間にか後手の飛車が大活躍しています。

ここで▲6五銀と逃げながら後手の飛車筋を止めていれば、まだ難しい形勢でした。しかし、谷川九段の一連のハードパンチの前に、さすがの羽生6冠も最善手を指し続けることは至難の業で、▲5四角と打ってしまい、△6八角(!)がさく裂しました。

▲5八飛、△8九桂成、▲同玉、△7六歩と進んで、ついに先手玉は収拾困難となりました。6三飛、6八角のどちらを取っても、△7七歩成を含みに上から押しつぶされてしまう形です。

△6三桂を見て、羽生6冠が投了されました。5五の銀を取って駒を補充する手もあり、先手玉は一手一手の寄り形です。

谷川九段はこの勢いのまま4勝1敗で竜王奪取に成功します。さらにその半年後には羽生6冠から名人位も奪還し、無冠から華麗なる復活を果たします。

その後は2004年に渡辺明竜王が誕生するまで、将棋界のタイトルは羽生世代の棋士達と谷川九段で争われる時代が続きました。

△5九角、▲6九飛、△7七桂という手順は、まさにこれしかないという唯一の攻め筋で、あまりにもカッコ良すぎる組み立てでした。谷川光速流対羽生マジックの戦いは両者の卓越した終盤力で多くのドラマを生み出して来ましたが、本局はその中でも谷川九段の最高傑作ではないかと管理人は思います。

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管理人の棋力はアマ五段くらい。好きな棋士は谷川浩司九段、「将棋の渡辺くん」に登場する渡辺棋王、佐々木勇気六段の話をする三枚堂達也六段、「りゅうおうのおしごと!」に登場する空銀子女流二冠です。

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